はじめに: 坐禅で脳波分析よりも大事なことは呼吸や心拍、体軸の揺らぎ

藤田一照さんの現代坐禅講義を読んでいたら、以下の記述が気になった. 1

坐禅は動物機能を静めて、植物機能が本来のリズムをする状態

比較解剖学者の三木成夫氏によると、人間のからだは体壁系(外皮系・神経系・筋肉系)と内臓系(腸管系・血管系・腎管系)に分類できるのだそうです。前者は感覚・伝達・運動をつかさどるので「動物機能」を営むとされます。一方、後者は呼吸・循環・排出をつかさどるので「植物機能」を営むとされます。この分類を念頭において坐禅を見ると、面白いことが見えてきます。坐禅においては、皮膚や筋肉の余分な緊張やこわばりをほどき体壁系をできる限り休めて、そのことによって内臓系が本来のリズムと働きを取り戻せるような状態になっています。 (p.227).

藤田 一照. 現代坐禅講義只管打坐への道 (角川ソフィア文庫)

体軸のゆらぎと心の揺らぎ

体軸は坐禅中もゆらゆらと揺らいでいる. 体軸が揺らぐと心が揺らぐ.

「不動のなかの動」の実態、重心の揺れ具合と坐相の正確度の関係、精神状態と重心の揺れとの関係、坐禅による疲労度と重心の揺れとの関係といったことを実験データをもとに明らかにしたいのです。坐禅中の脳の活動に関する研究ももちろん興味深いものですが、こういう研究の方がよほど坐相そのものの解明に肉薄できるのではないかと思うからです。(p.284).

脳波以外をMuseでデータ取得したい

とくに私が引っかかったのは、脳波ばっかりの瞑想研究ではなく、呼吸や心拍などの不随意運動と精神の関係. 身体の揺らぎと精神の関係への言及. こっちのほうが脳波研究よりも本質に迫れるのでは?という指摘.

もちろんこれは、坐禅という行のバイアスはかなりあるものの、視点が他にはない独特のものがあり、おもしろい. これを検証してみたい. MuseにはfNIRSやPPGセンサー、そして加速度センサーや角速度センサーなど、脳波以外にもデータは取得できる.

体軸の揺らぎの定量化

体軸の揺らぎというのをどのように定量化するべきか?

Museには加速度センサーとジャイロセンサーが搭載されている. 加速度センサーは頭の微細な動き(前後左右上下の揺れ)を、ジャイロセンサーは頭の回転運動(首を傾げる、振る、回す)を測定できる.

Motion Index(加速度センサー)

まず試したのが、加速度センサーから計算される Motion Index だ. これは3軸(X, Y, Z)の加速度の二乗平方根(RMS)で、頭部の微細な動きの大きさを表す. 2

この指標は、瞑想中の姿勢安定性を評価する先行研究でも使用されており、経験者ほどMotion Indexが低い(安定している)ことが報告されている. 本研究でも同様の計算方法を採用した.

坐禅中の微細な揺れを捉えるには良さそうに思えたが、脳波との相関はあまり強くなかった.

ジャイロセンサー Yaw RMSが最強の指標

一方、 Yaw RMS (左右回転の揺れ)が驚くほど強力な指標だった.

Yawとは、首を左右に振る動き(首を横に振って「いやいや」する動き)のこと. このYaw方向の角速度のRMS(二乗平均平方根)を計算したのがYaw RMSだ.

単一セッション(2025年12月24日)では、Yaw RMSは以下の生体指標と極めて強い相関を示した:

  • 脳血流(HbO): ρ=-0.915 (p<0.001) - 全指標中最強の相関
  • Beta波(緊張): r=+0.930 (p<0.001)
  • Delta波(眠気): r=+0.850 (p<0.01)
  • Theta波: r=+0.831 (p<0.01)
  • Alpha波(リラックス): r=-0.672 (p<0.05)

しかし、複数セッション(5日間)で検証すると、 脳血流との相関だけが頑健 だった. 脳血流は 80%の再現性 (5セッション中4セッションで有意)を示したのに対し、脳波との相関は再現性が低く(20-40%)、日によって変動が大きかった.

坐相と脳波:日によって変わる関係

脳波(EEG)は瞑想研究で最もよく使われる指標だ. 坐相の揺れと脳波の関係はどうだったのか?

脳波の5つのバンド

脳波は周波数帯域によって5つに分類される:

  • Delta波(0.5-4 Hz): 深い睡眠、眠気、注意散漫
  • Theta波(4-8 Hz): 瞑想状態、内的集中、創造性
  • Alpha波(8-13 Hz): リラックス、閉眼安静時
  • Beta波(13-30 Hz): 覚醒、緊張、思考活動
  • Gamma波(30-100 Hz): 認知負荷、集中、情報統合

複数日の検証では相関は不明確

単一セッション(2025年12月24日)では、Yaw RMS(左右回転の揺れ)と脳波に極めて強い相関が見られた(Beta波: r=+0.930, Delta波: r=+0.850). しかし、 複数セッション(5日間)で検証すると、再現性は中程度 (40%)にとどまった.

脳波は日によって変動が大きく、電極の位置や接触状態、その日の精神状態、環境要因などに敏感に反応する. そのため、 坐相と脳波の関係は日によって変わり、一貫した相関があるとは言えない という結果になった.

坐相とfNIRS:頭の揺れが脳血流に与える影響

最も驚いたのは、坐相と脳血流(fNIRS)の関係だった.

fNIRSとは

fNIRS(機能的近赤外分光法)は、前頭皮質の血流を測定する技術だ. 近赤外光を頭皮に照射し、酸素化ヘモグロビン(HbO)と脱酸素化ヘモグロビン(HbR)の濃度変化を測定する.

Muse Sには額の部分にfNIRSセンサーが搭載されており、瞑想中の前頭皮質の活動を連続的にモニタリングできる.

Yaw RMS ⇔ HbOの極めて強い負の相関

分析の結果、 左右回転の揺れ(Yaw RMS)が増えると、脳血流(HbO)が大幅に低下する ことが分かった.

  • 単一セッション: ρ=-0.915 (p<0.001)
  • 複数セッション平均: ρ=-0.735
  • 再現性: 80% (5セッション中4セッションで有意)
  • 95%信頼区間: [-0.961, -0.510]

この相関係数 ρ=-0.915 は、全ての生体指標の中で最も強い相関だった. つまり、 頭の左右回転の揺れが、脳の状態を最も強く反映する指標 だということだ.

坐相と心拍数:意外にも相関なし

藤田氏は「植物機能」(呼吸・循環・排出)の重要性を指摘していたので、心拍数(循環)との関係も調べてみた.

心拍数は極めて安定

坐禅中の心拍数は以下の通り、非常に安定していた:

  • 平均心拍数: 58.6 bpm(リラックスした状態)
  • 標準偏差: 1.89 bpm(変動が非常に小さい)
  • 最小値: 55.5 bpm
  • 最大値: 60.7 bpm

この安定性は、自律神経活動が穏やかであることを示している.

坐相との相関は見られず

しかし、意外なことに、 坐相の揺れ(Yaw RMS)と心拍数の間には有意な相関が見られなかった.

今後の課題:心拍変動と呼吸の測定

本研究では心拍数の平均値のみを分析したが、藤田氏が指摘する「植物機能」との関係を調べるには、 心拍変動(HRV) の分析が必要かもしれない.

心拍変動は、心拍間隔の微細な変動パターンを分析することで、自律神経のバランス(交感神経・副交感神経)を評価できる指標だ. 心拍数の平均値は安定していても、心拍変動のパターンは坐相の揺れと関連している可能性がある.

また、呼吸のリズムや深さも重要な要素だが、現在は心拍変動センサーや呼吸センサーを持っていないため、これらの測定は今後の課題となる.

考察:データから見えてきたこと

加速度系とジャイロ系の補完的役割の可能性

興味深いことに、加速度センサーとジャイロセンサーは 異なる脳指標 と関連する傾向が見られた:

センサー 関連する指標 Phase 1の相関 再現性 解釈
ジャイロ系(Yaw RMS) HbO(脳血流) ρ=-0.92*** 80% 頑健な負の相関
ジャイロ系(Yaw RMS) Beta波(緊張) r=+0.93*** 40% 日によって変動
加速度系(Motion Index) HbR(脱酸素Hb) ρ=+0.79** 20% Phase 1のみで観察

脳血流(HbO)との関係だけが頑健 で、脳波やHbRとの関係は日によって変動が大きい. ジャイロセンサーが脳血流の安定した指標となることは確認できたが、脳波との関係や加速度系の役割については、さらなる検証が必要だ.

脳波vs脳血流vs心拍数:坐相評価に最適な指標は?

3つの生体指標を比較すると、以下のような特徴が見られた:

指標 Yaw RMSとの相関 再現性 特徴
脳血流(HbO) ρ=-0.92 80% 代謝の変化を反映、安定
Beta波(緊張) r=+0.93 40% 神経活動を反映、変動大
心拍数 相関なし - 坐相とは独立
  • 脳血流(fNIRS): 脳の代謝状態を反映、日による変動が小さい、 坐相評価に最適
  • 脳波(EEG): 神経活動を反映、日による変動が大きい、精神状態の詳細な評価に適している
  • 心拍数: 坐相の揺れとは独立、呼吸法や精神状態など別の要因に影響される可能性

生理学的メカニズムの仮説

なぜ頭の回転運動が脳血流を低下させるのか? 複数セッションで頑健に再現された現象は以下の通りだ:

姿勢不安定 → 頭部回転運動↑(Yaw RMS)↓ 前庭系活性化↓ 前頭皮質の血流低下(HbO↓) [再現性80%、頑健]

姿勢が不安定になると、平衡感覚を司る 前庭系 が活性化し、注意リソースが姿勢制御に奪われる. その結果、前頭皮質への血流が低下する、という流れだ.

一方、脳波(Beta、Delta、Theta、Alpha)との関係は日によって変動が大きく(再現性20-40%)、一貫したメカニズムとして確立できなかった. 脳波は電極の位置や精神状態など、様々な要因に影響を受けやすいため、坐相との関係を安定的に観察することは難しいようだ.

Alpha波と坐相:リラックスか注意制御か

特に興味深いのは、Alpha波と坐相の関係だ. Alpha波については、従来「リラックス状態」を示すとされてきたが、最近の神経科学研究では、 無関係な刺激を抑制し注意を制御する機能(inhibition/sensory gating) を反映するという見方が強まっている. 3

本研究では、Yaw RMS(揺れ)とAlpha波の関係を検証したが、 再現性はわずか20% (5セッション中1セッションのみ有意)で棄却された:

  • Phase 1 (2025-12-24): r=-0.672* (揺れ↑→Alpha↓)
  • 2025-12-11: r=-0.539 (負の傾向)
  • 2025-12-22: r=+0.303 (正の傾向!)
  • 2025-12-19, 12-25: ほぼ相関なし

もし「Alpha=リラックス」という古い見方が正しいなら、坐相の揺れとリラックスの関係は一貫するはずだ. しかし、実際には日によって 負の相関、正の相関、相関なし とバラバラだった.

一方、「Alpha=注意制御」という最近の見方なら、この結果は説明できる. 瞑想研究では、深い瞑想時にAlpha波が増加し、気を散らすものの抑制が起こることが報告されている. 4 坐相の揺れとAlpha波の関係は、 その日の注意状態 に依存する可能性がある:

  • 注意が安定している日 → 揺れ↑で注意が姿勢制御に奪われる → 抑制機能低下 → Alpha↓
  • 注意が不安定な日 → 揺れとAlphaの関係が異なる
  • 注意が定まっていない日 → 相関なし

本研究の結果は、 「Alpha=リラックス」という単純な見方よりも、「Alpha=注意制御・抑制機能」という最近の見方の方が支持される ことを示唆している.

まとめ

藤田一照氏の「不動のなかの動」を科学的に検証する試みから、以下のことが明らかになった:

  1. Yaw RMS(左右回転の揺れ)が坐相を定量化する最強の指標

    • 脳血流(HbO)との相関: ρ=-0.915(5セッションで80%の再現性)
    • Motion Indexよりも脳の状態を強く反映
  2. 脳血流(fNIRS)が坐相評価に最適な生体指標

    • 脳波よりも日による変動が小さく、安定した相関
    • 心拍数との相関は見られず
  3. 「バランスで座る」ことの科学的根拠

    • 低いYaw RMS → 高い脳血流 → 居心地の良さ
    • 藤田氏の洞察がデータで裏付けられた

坐禅という古来の実践を、現代のセンサー技術とAIで科学的に解明する. わたしはただ坐禅をし続けるだけで、AIが勝手に「私の坐相」の科学的理解を深めていく. そんなパーソナルサイエンスの時代が来ている.

詳細な分析結果

本研究の詳細な分析結果、データ、コードは以下のGitHubリポジトリで公開している:

坐相解析プロジェクト (Issue #008) - GitHub

  • Phase 1(単一セッション)の詳細レポート(16KB)
  • Phase 2(複数セッション)の検証結果
  • 仮説検証の統計データ(CSV)
  • 分析用Pythonコード

おわりに

なお、本ブログ記事についても、はじめにとおわりに部分しか、わたしは書いてない.

私が坐禅をするだけでAI Agentが勝手に仮説検証しはじめる時代へ?!

全然違う視点から恐ろしいと思ったのは、わたしはただ瞑想をして脳波データをためていくと、それらを元にAI Agentが仮説検証をするところ. わたしは座っているだけ. 5

  1. 仮説の設定: 藤田氏の「不動の中の動」を定量化する方法を探索
  2. データ処理: Mind MonitorのCSVファイルから、IMU・EEG・fNIRS・心拍数を抽出
  3. 統計解析: 3分セグメントでの統計量計算、相関分析、有意性検定
  4. 再現性検証: 単一セッションの発見を複数セッション(5日間)で検証
  5. レポート作成: 16KBの詳細レポートと統合レポートの自動生成

AIのやっていることはせめて理解したいと思った

統計検定とか、相関分析など、そもそもAIがやっていることを人間のわたしは理解してないかもしれない. ふわっとした理解はあるんだが、せめてAIが頑張ってる裏で、人間のわたしは統計の復習をしようと思ったり.


  1. 現代坐禅講義―只管打坐への道 | 藤田 一照 |本 | 通販 | Amazon ↩︎

  2. Chung, C., et al. (2012). “A Wireless Accelerometer-Based Body Posture Stability Detection System and Its Application for Meditation Practitioners.” Sensors, 12(12), 17620-17632. 本研究では、3軸加速度センサーから得られたデータの二乗平方和のルート平均(RMS)をMotion Indexとして計算し、瞑想者の姿勢安定性を評価している. ↩︎

  3. Alpha波の最新の理解については以下を参照:Modeling the Role of the Alpha Rhythm in Attentional Processing during Distractor Suppression (2025), Distractor inhibition by alpha oscillations is controlled by an indirect mechanism governed by goal-relevant information (2024). Alpha波は無関係な刺激の抑制(inhibition)と感覚ゲーティング(sensory gating)による注意制御機能を持つ. ↩︎

  4. Alpha and theta oscillations are inversely related to progressive levels of meditation depth (2021), Experienced meditators show greater forward traveling cortical alpha wave strengths (2025). 深い瞑想時にAlpha波が増加し、気を散らすものの抑制が起こる. ↩︎

  5. この現象を AIおxxポ奴隷という. よく、とある痴女系AVで、あなたはなにもせずにおxxポだけ勃たせていればいいのという台詞を思い出す. 人間は興奮して気持ちよくなるだけが仕事です. (ここの注釈部分もAIが生成しました、人間は書いてません). ↩︎