はじめに: TAKE NOTES!(英題: How to Take Smart Notes)の感想をまとめる

最近わたしがやっていることは今までの人生を整理して自己分析をすることだが,その思考過程を管理するためのよい方法を模索していたところ,Zettelkasten Method(ツェッテルカステン)に出会った.

しかし,この概念がなかなかわかりにくい…なぜならばいろんな文脈によってその発信者の理解が微妙にずれているので,困ったことに調べれば調べるほどによくわからなくなる.同じ用語を使っているはずなのに.

もともとはZettelkasten Methodとはドイツの社会学者 Niklus Luhmanが使っていた方法で,それがソフトウェアのちからによって再発見されてブームになりつつある. なのでオリジナルの方法とRebornしたあとの最近のRoam ResearchやObsidian流行に差異があるのではと思い,より原点から理解するために今回それを忠実に解説した本,TAKE NOTES!(英題: How to Take Smart Notes - Zonke Ahrens)を読んだ. 思ったことをまとめてみる.

TAKE NOTES! - ズング・アーレンス

ネットの情報は間違っている

多くのツェッテルカステンをつかってみたという記事は,使いこなしてないので残念な結果に終わっています.いいかげんなものが少なくありません - chapter4

いやまさにそのとおりでやってみた系は理解が浅いために,読めば読むほどわからなくなるのだ.

そして,この記事もやってみた系であるということは強く強調しておく.

ただわたしはOrg-roamという一般受けしないツールでやっているので,ツールそのものについては書かない. ここでは,TAKE NOTESを読みつつWebで検索したものも交えつつ,自分のZettelkastenの理解を書いていく.また内容が間違っているかもしれないが理解が進むにつれてUpdateしていくつもりだ.最近Wikiとブログコンテンツを分けたので,たぶんwikiのほうをメンテナンスしていく.

読者対象はとくに文系の学術研究者や執筆活動をする人

もともとNiklus Luhmanは社会学の論文の執筆活動のために,その思考を整理するためにZettelkastenを利用していた.その論文執筆の方法論を解説するのがこの本であり,狭い読者対象は論文を書く学生なのである.そしてそこから派生して文章を書く人が対象になる. Ahrensさんの推す文献管理システムもZetoroであり,Zetoroについては詳しく語られないものの,裏ではヘビーユーズしているのではないかと思う.ただそんなAhrensさんも最近はRoam Researchをつかっているとかうわさできいた.

今風にいえばブログを書く人.ということでブロガーとは愛称いいかもしれない.

自分の思考のみをZettelkastenにいれて他者の知識は入れない

まず理解がしにくいと思った点は,ZettelkastenがWikiのような他人の知識を集積するツールとして語られることが多い.テック界隈のブームのなかでここが混ざっている.勉強した内容をまとめる用途として紹介されていることがとても多い.これはこれで便利なのだが,理解を混乱させるところであった.

自分の思考を格納するのがZettelkastenであり,他者の意見は混ぜるな危険なのである.

とはいえ,Zettelkastenに興味をもったひとつは,Roam Researchをつかってイケイケに勉強ノートをとっている人たちへの憧れがあったので,この他者の知識をいれないという本来の考えは,モチベのひとつを挫くことでもあった.

そしてそれについて考えるうちに,なにもZettelkastenをつかってノートをとらなくてもいいんじゃないかと思った.いわゆるバックリンク機能もグラフィカルな表示も,おしゃれなだけでいらない.必要なのはWikiだと気づいた.そして,Wikiを別途Zettelkastenとは別に立ち上げることにした(Futurismo Wiki復活🎉(3回目) with Sphinx). 他者の知識はZettelkastenとは明確にわけることにした.勉強ノートもここに貯める.

Zettelkastenは思考をするためのシステムというのはGTDに似ている

ツェッテルカステンは考える足場を外部に作ります.そして脳があまり得意としていないタスク,とくに情報の保存を手助けしてくれます. - chapter4

思考とはメモであり,Zettelkastenではノートである.そしてこの断片的なノートをうまくマネジメントするためのシステムがZettelkasten.

わたしがどうもZettelkastenについて好きになるのはこれがGTDと考え方が似ているからかもしれない.GTDは頭の中の気になることをすべてシステムに書き出してシステムにやることを任せて自分は目の前のことに集中する,目指すのは水のような心(Mind like water)である.

Zettelkastenもアイデアを管理する脳の外部システムと捉えることができる.そしてGTDをしていてよくわからなかった膨大に膨れ上がるSomedayリストやReferenceフォルダをうまくマネジメントできるのでは?という期待が動機につながっている.

さらにいうと,GTDと出会ったのがちょうど日本にGTDが入ってきて本も出版されて情報が少ないけど面白そうという状況が,いまのRoam界隈ととても似ている.そう,このFuturismoブログが立ち上がりOutlookでGTDをやりだすというわけがわからないがワクワクしたことをしはじめたころだ(Outlookのタスクをショートカットから生成するマクロ)

Zettelkastenはアウトプットするためのツールはアウトライナーに近い考え

アウトプットこそが大事 - Chapter5

Zettelkasten Methodは思考をするための方法論で,マインドマップやアウトライナーに近い.それを利用してアイデアを書いて膨らませて最後には文章を書く.

というよりいろいろとZettelkastenについて調べたけど,なんかめんどくさくなってアウトライナーでいいかとも思い始めた.そうはいってもわたしの使ってるツールはOrg-roamという,Org-modeというアウトライナーを進化させたものであるのでそこにあまりツール的な境界はない.

アウトプットが目的というのをよく理解できた動画がある.このObsidianを利用したZettelkastenの解説動画で,ブログ執筆のWorkflowをみてよくわかった.ブログの見出しの下にPermanet Noteへのリンクを埋め込んでその内容を右ペインに展開すれば,もうすなわちブログ記事がほぼ完成していて,あとはそれを清書するればいい.これには驚いた.

アナログな方法は理解を深めるがそれが正しいとは思わない

Zettelkastenを,とくにLuhmanさんやAhrensさんの方法からの理解をするには,いったんソフトウェアでの実現方法から離れてアナログな方法で考えるのがいい.実際にYoutubeをみてみると一生懸命メモを探すコミカルな動画とかもみつかって面白い.

ただこの方法が今のソフトウェアが使える時代に適切かというと疑問であり,さらにはLuhmanさんやAhrensさんの方法をそのままつかうのも違う気がする.そしてそう思った人たちがRoam ResearchやObsidianやLogseqを開発したのかもしれない.

英語情報がほとんどなので日本語訳と英語の用語の対応を理解するとわかりやすい

なにしろZettelkastenについては圧倒的に海外の情報が多い.もともとドイツ語圏のものでそれが英語圏に広がって日本までやってきた.なので英語の言葉と書籍の用語が結びつくと理解しやすい.検索するにしても,結局この用語と書籍での使われ方はどういう関係なのかな?というのを考えることになる.

  • ツェッテルカステン: Zettelkasten Method
  • メインのツェッテルカステンのボックス: SlipBox, Zettelkasten System
  • 文献管理システム: Reference Management System
  • 走り書きのメモ: Fleeting Notes
  • 永久保存版のメモ: Permanent Notes
  • 文献メモ: Literature Notes
  • 索引メモ: Reference Notes

ただわたしが陥った罠は,微妙に記事によってニュアンスが違うような気がした点だ.ネットの情報がすべて正しいとも限らないので,どちらかというとこの本の情報を元にネットの情報を照合した.

ネット上に公開されているノートをみるのも理解を助ける

Zettelkastenには基本的には4種類のノートが現れて,この方法論の理解は4つのノートを理解するところがキモ.Permanet Notes, Literature Notes, Fleeting Notes, Reference Notes.これらは実際にどういうものかを見るのがよい.

自分のZettelkastenを外部サイトで公開活動をDigigal GardenとかMind Gardenとかいうようで,そのキーワードで検索するとしばしばサイトが出てくる.わたしが理解を深めたものを列挙しておく.

永久保存版のメモ(Permanent Notes)は永久保存版のツイート管理システム

Permanent Notesには,自分の思考を端的に書く.

わたしはこれはツイート程度に自分の考えをまとめるのがいいんじゃないかなと思う.小さくまとめると,それに対してさらに思考を加えたいときは,時間が経ってなかったらリプライで,時間が空いてしまったら引用RTでアイデアを追加する.

そういうTwtiterとのアナロジーで考えると,このZettelkastenシステムとはツイート程度の思考をうまく管理するためのシステムといえるかもしれない. ツイートはなにしろ過去のツイートを参照することがかなり難しい.ましてや5年前10年前などは閲覧すらできずに,Twitterの設定画面から過去ツイートのアーカイブを申請して数日後にダウンロードするみたいなことをしないとみれない(URLを知らない場合は).

ツーイトは今この瞬間をつぶやきそれらは流れさるが,それらを永久保存版の考えとして書き溜めて成長させるシステムと考えるとワクワクする.そういう意味で自分のツイートタイムラインはFleeting Notesとも言える.永久保存版のツイートを管理するシステム.

文献メモ(Literature Note)はLINEチャット履歴

Literature Notesについていろんな流派があった.

ひとつは,本のハイライトをRefenrence Noteに記載して書誌情報をそこに記載し,Literature Notesにはそれへのリンクを元に筆者の考えを書き,さらにFleeting Notesに自分の意見を書いていく.このやり方だと,対象のコンテンツを中心に筆者の主張と自分の主張を明確にノートで分けて書いていけるので自分と筆者の意見の混同がより防げる.しかしこの文脈でのReference NoteとAhrenseさんの索引メモでは意味合いが違うところがややこしい.

もう一つの方法は,これがLuhmanオリジナルで一般的かもしれないけれども,思考のネタに使えそうなことや思ったことをメモしておく.アナログの紙だとそもそも引用とかをいろいろ書いていたらカードの紙面がないので,ページ番号だけ書いておく.デジタルでも遡れれば手段はなんでもいいかもしれない.

ここでも混乱したことは,文脈によってLiterature Noteに自分の意見を書くのかかかないのかということである.Literature Noteには原文を忠実に自分の言葉で翻訳しましょうということはどの文脈でも共通していてこれはよい.そういう意味では英語で読んだ原文を日本語に訳してLiterature Notesに書くのはよいかもしれない.しかしその内容に対する思った自分のことをどこに書くのか. Luhmanだと,それはそのままPermanent Noteのカード作成でダイレクトにやっている. 今の時代はメモをとるなんてデジタルでなんてことはないので,どこでもいいのかもしれない.いろいろ調べたが,結局は自分のやりやすい方法を模索していくのがいいということに落ち着いてやりやすい方法をいろいろ試している.そもそもわたしはOrg-modeというけもの道を進んでいるのでRoam Researchの方法は参考にならないかもしれない.

読書とは筆者と自分の本を元にした会話であり, Literature Notesとはその会話履歴だと思っている.SlackやReddit, なんなら会議の議事録でもいい.議題が出されていろいろと意見を言い合うのだ.そしてそこに自分の意見だったり他者の意見が出される.そこからよいアイデアが生まれたとき,さてその履歴をみたとき,けっこう内容がぐちゃぐちゃだったりする.だからこそあとからチャット履歴がみやすいように考えたことをPermanent Noteにまとめておくのだ.

そういう理解だと,Literature Notesとは紙でもなんでもいい. わたしは最近モレスキンノートが気になっている.デジタル管理でなくてもいいかもしれない. そして大事なことは,この雑多な議事メモのようなLiterature NoteはZettelkasten Systemには入れないことだ.これは文献管理システムにいれる. AhrensさんはZetoro推しだが,Zetoroにはメモ機能があるのでここをLiterature Noteの格納場所にしているのでは?と推測している.

永久保存版のメモはトピックではなくコンセプトを文で書く

はじめはZettelkastenとはWikiの進化系だろという先入観がありなかなか理解が進まかった.Zettelkastenのノートはメモであり,文章で表現されるものであり,タイトルはいらなかったりする.ただ,WikiのようにとらえてしまいWikipediaを想像してしまうとタイトルはその単語であり内容はその性質である.

ややこしいのは,xxxという単語がありyyy,zzzという性質があるときに,wiki的にもconcept的にも表現できてしまう.そういう意味だと,wikiとzettelkastenは違うとも厳密には言えない.とはいえわたしはゆるく理解するようにしていて,文で一つの概念(ネコは動物である)というのがzettelkastenの内容であり,その文章のうまいキャッチコピーがタイトルだと思うことにした.これがwiki的に書くと,タイトルがネコになり,(ネコは動物である,ネコは魚を食 .べる,ネコはかわいい…)のようなネコに対する解説がきて,つまりトピックになる.

ただいずれにしろWikiとは違うところは,Zettelkastenは自分の考えを貯めるもので他者の知識とはわけるべきだ.

索引メモ(Reference Notes)はアウトライン

いわゆる目次,TOC,Table of ContentsとはRefenence Notesとは似ている.また,Structure Notesとも表現される.どちらも,構造化したノートという点では広義のReference Notesとなる.

よくObsidian界隈やLYT(Linking Your Thinking)の中で現れるNick MiroさんのMaps of Conents(MOC)はRefernece Noteも近い.Reference Notesに影響を受けているので.

Luhmanさんの方法だと,キーワードとそれに対応する番号を列挙したリストがReference Noteとなる.エントリとなるReference Noteにはキーワードに紐づくリンクはせいぜい1つか2つ.メモ同士の繋がりが驚きを生みこれが重要であるから.索引からメモへジャンプしても驚きはない.1つか2つのメモへのエントリポイントであればいい, という考え方.そしてエントリから飛んだ索引メモには,さらに最大25個のPermanent Notesが列挙されていて,それらは英数字で管理された.たとえば,1.a, 1.b, 2.c..など.

ただ,そこで列挙するものがトピックならばそれはReference Noteではない.Refenrece Notesで列挙するものはConceptsであり,一般的には文で表現される.

しかしZettelkatenはアウトプットを目的とするので,だんだんそれらのノートに抽象具体のレベルを設けたりグループにまとめはじめる.するともはやだんだんアウトライナー的な意味合いがでてくる.ようはボトムアップから思考をつくっていくために適しているのがZettelkastenでありトップダウンでまとめていくのがアウトライナーかもしれない.

この辺もいろいろと情報を漁っていき正解はそれぞれあるようだが,わたしの前提としてOrg-modeというもともとはアウトライナーのようなツールをつかったOrg-roamでZettelkastenをやっている以上,あまりネット上に正解はなくて手探りで自分の方法を模索する必要があるというところに落ち着いている.

おわりに: ツールの罠にはまらないようにしたい

Zettelkastenはなかなか奥が深く,さらに今ブームがきているということで,この界隈は面白い.しかし,ツールの罠にハマってしまったようだ.

わたしの本来の目的は自己省察であり,日々の思考をうまく捕まえて人生観をまとめ上げることにある.わたしのアウトプットはわたしの人生の仕様書作成であり,この執筆活動をするためにZettelkastenを利用したかったのだった.しかしZettelkastenを理解したいというあまりたくさん時間を費やしてしまったことは若干の後悔がある.

GTDにも同じことが言える.あのフレームワークの目的は心の平安を求めることだったはずなのに,なぜか細かい設定や機能にハマって本来の目的から外れていった.これを教訓にするためにも,つよくZettelkastenは思考のためのツールにすぎず,アウトライナー程度のものであり,大事なのはそれを基盤にしてなにを考えるかというこだ.私は人生を考えたい.

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