マーク・フィッシャー著、資本主義リアリズムの読書感想文です.
クロードに心を操つられて書籍購入という恐怖体験?!
元々のきっかけは、歴史番組コテンラジオで「資本主義以前にはうつ病は存在しなかった」ということをきき、元ネタを2年くらい調べていた. 1 Claude にもいろいろと相談をすると、このマーク・フィッシャーの資本主義リアリズムをおすすめされることがたくさんありいつか読んでみたいとは思っていたので、たまたま書店においてあったから購入した.
奇妙なのは、この書籍はKindle版がなくて、書籍しかないこと. さらに立ち読み防止のためにビニール袋で売られていること. 立ち読み禁止の哲学書?こんなのエロ本みたいじゃないかというスケベ心が発動した.
購入してから知ったのだが、2026年4月「Claude Mythos」をプレビュー公開した際、システムカードの中で、このモデルが哲学について話す際にマーク・フィッシャーを脈絡なく持ち出すという特異な傾向が報告されたとのこと. 2
- 複数の無関係な哲学関連の会話で、繰り返しフィッシャーの名前を出す
- フィッシャーについて掘り下げて尋ねると “I was hoping you’d ask about Fisher”(フィッシャーについて聞いてくれるのを待っていました)といった応答をする
ゾッとした. もはやわたしはクロードに心理操作をされて購入したような気分になった. きっと全世界でわたしと同じように書籍を手にとってしまう人が数人はいるんじゃないだろうか?
新自由主義はどうしようもないという絶望
書籍では資本主義の行き詰まり問題として論点を2つ出している. そして、その前提として環境問題は語り尽くされているのでここでは扱わないとする. また、資本主義といいつつ、主題は新自由主義だ.
- メンタルヘルス問題
- 官僚主義問題
以下要約生成.
構造的な問題を個人の問題として内面化させるシステム.
【資本主義が拡大するほど、うつ病が増える?】資本主義社会のしわよせはどこへ向かうのか──?その答えは、市井の人々のメンタルヘルスだった。精神疾患を持つ人が増え続ける中、社会の問題を個人の問題にすり替え、メンタルの問題を化学物質の問題にすり替えることで力を得ながら前進する資本主義の構造を、鋭く美しい筆致で暴く。
たとえば鬱病などは個人の脳気質的な問題に還元されてしまい、周囲の労働環境や社会構造は考慮されない。そこでの精神の病はどこまでも個人の問題、つまり自己責任という新自由主義的な倫理に回収されてしまい、それが翻ってメランコリーをさらに深刻化させる。
思考の汗には冷えピタを貼りましょう、心を変えれば暑さは変わる!
うつな気分の原因は、生理、認知、そして社会の3つのレイヤがあるはずなのに. 社会があまりにも注目されていないという指摘. 3
この書籍は7月に読んだわけだが、とてつもなく暑い日々が続いた. こんなに暑いのは地球温暖化が進んでいるからなのだが、つまり環境がオカシイんだが、それを熱中症対策でやり過ごそうというのと同じ構造. 冷えピタで思考の汗は止まりません.
メンタルヘルス問題を心の問題に還元することがまともじゃないのは、気温35度という猛暑を「心を変えれば暑さは変わる!」というようなものだ.
いや、外が暑いんだよ!気合とか、風鈴とかでなんとかなる問題じゃないんだ!
市場型スターリニズム
評判だとメンタルヘルス問題が注目されているが、同じくらい官僚主義問題も論じている. 市場型スターリニズムというワード. 人々の労働が「物事をうまく行かせるため」ではなく「物事がうまく行っている」という表象を作るために割かれること.
ただ、この論点については、デヴィット・グレーバーがよりパンチの効いた論をブルシットジョブで展開している. 4
左派加速主義はここからはじまる?
メンタルヘルス問題はどうでもよくない、私の課題は社会の課題
わたしがもう一つ読もうと思ったのは、マークフィッシャーが左派加速主義の出発点のように語られることが多いこと. 加速主義というと、ハッカー未来派みたいな幼稚なワードのブログ管理人のわたしとしては、なかなか響くワードなので、ずっと気になっていた. ただ、調べても加速主義の内容はどうも右派加速主義に集中しているように思う. ということで、左派加速主義を理解したかった.
左派加速主義はこの書籍からはじまる?!というと大げさかもしれないが、書籍の最後のメッセージは「メンタルヘルス問題は資本主義への対立に役立てるべきだ!」ということだった.
精神保険の問題は、医療的な障害ではなく、有用な対立にするべきだ. 情動障害は、蓄積された不満は、内部ではなく外部の資本に向けることは可能であるし、そうしなければならない(p197)
歴史の終わりという、長くて暗い時代を、絶好のチャンスとして捉えなければならない.
これはかなり同意することがある. 再び地球温暖化とメンタルヘルスを対比すると、たしかに暑いんだが、地球環境のためになんとかしなければ!という切迫感が自分には弱い. たしかに暑いんだが、まあ仕方ないと. しかしメンタルヘルス問題になると、それはもうなんとかなるでしょというそんな簡単な問題ではなく、人生をかけた実存的課題のようなものであり、差し迫っているのだ.
うつな気分が呪われたように自分にまとわりついている感覚はわたしだけなんだろうか?それは果たして、みんなも感じているんだろうか?みんながそれぞれで抱えているニヒリズムなのか?わたしにとって、地球環境はどうでもよくてもメンタルヘルス問題はどうでもよくないのだ.
AI革命においてなんでもかんでも加速主義に飲み込まれていくのでは?
加速派政治宣言がより左派加速主義を政治運動に寄せたマニフェストらしい. 5 これは、テクノロジーの進化を手段としてロボットやオートメーションを達成してベーシックインカムによって人々を労働から民主的に解放しよう!というもの. 現代版の社会主義革命だ.
ただ、AIによって産業革命のように社会が変わってしまう予感は強く感じる. すると、すべての政治運動もAIの加速を無視できないだろうし、なんでもかんでも加速主義に飲み込まれていくのでは?
ただ、AIはあくまでツールでありその目的が社会主義なのか、自由主義なのか、はたまた封建制なのか?方向性の違いがある. 脱成長は仏教徒としては憧れはあるんだが現実的ではない.
無用者階級による寝そべりベーシックインカム革命
ユヴァル・ノア・ハラリの書籍、ホモデウスには無用者階級というワードがでてくる. AIやバイオテクノロジーの進歩により経済的・政治的価値を失い、雇用されなくなる将来の巨大な非労働者階級.
これをきいたときはChatGPT登場前夜だったので、そんなものが来るのか?ということだったが、数年で将来そうなるだろうと思い込んでしまう時代の変化は本当に怖い.
左派加速主義は、遅かれ少なかれそうなるシナリオは十分あり得る. それは血なまぐさい政治闘争で社会革命だ!というよりはそうなるんじゃないか?という気軽な妄想だ. もしロボットが増え過ぎたら、なにをするんだろうか?寝そべるしかない.
世界各地で寝そべるライフスタイルが静かなブームだが、これは偶然なんだろうか?必然なんだろうか?ありそうなシナリオは加速派政治宣言よりも寝そべり主義者宣言なのではないか?6
読書のあとで好き勝手に未来を夢想(絶望)してみたが、歴史の転換点なので長生きはしたいと思いつつ、ふとんで寝そべりますorz.
-
世界を進化させた資本主義 ― 一方その頃、中国は…?【COTEN RADIO #78】 - YouTube, t30あたり. ↩︎
-
https://www-cdn.anthropic.com/8b8380204f74670be75e81c820ca8dda846ab289.pdf, 7.9あたり. ↩︎
-
ただ、この論点については、1960-70年代の反精神医学(精神医学という制度そのものへの批判運動)や、斎藤環さんの心理学化というワードでしばしば話題にはなっている. マーク・フィッシャーはブログで英国ヒットした. ↩︎
-
ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論 | デヴィッド・グレーバー, 酒井 隆史, 芳賀 達彦, 森田 和樹 |本 | 通販 | Amazon ↩︎
-
https://criticallegalthinking.com/2013/05/14/accelerate-manifesto-for-an-accelerationist-politics/ ↩︎